事例集:【CASE 02】空き家の処分

田舎の土地を売らないと、借金を返せない。(静岡県静岡市・Iさん)

知人である生命保険代理店の役員からの相談でした。顧客のIさんは、父親が亡くなり、急遽会社を引き継いだものの、売り上げは右肩下がり、資金繰りも思わしくないうえに、5,000万円を超える借入があり、早急に会社を立て直す必要に迫られていました。

その状態を改善するべく、知人がコンサルティングを進めていたところ、Iさんは、静岡市清水の空き家を相続しており、その空き家を売却して借入金の返済に充てることを計画し、私に相談がありました。

話を伺い、現地を調査したところ、近くの駅からはバスを利用した地域で、急斜面にその土地はありました。隣接地には大きなお寺と墓地が点在しており、東京的な観点では、売却できるのか?という不安に駆られる物件でした。

また、400坪を超える土地が売却の対象地でしたが、過半は傾斜地の耕作放棄地であり、道路の接道要件も満たしておらず、建物を建築することは現実的ではありませんでした。

傾斜地のかかる造成費用

そして、この土地の大きな問題点は、傾斜地に在り、三方を道路に囲まれた土地であることでした。(図3)横になったUの字の内側に土地があるのですが、上と下では道路の高低差が3粒程ありました。そのため、擁壁工事が必要となり、その擁壁工事や造成工事を考えると不動産会社が買い取れる価格は大きく下がってしまうのです。

一団の土地として一人が利用しているときは、地盤の傾斜や高低差があってもどうにか利用できますが、分割して各々活用しようとすると、道路への接道などを考慮する必要があり、簡単にはいかないことがあります。

とりあえず、私のネットワークを通じて静岡県の不動産業者の皆様に情報を開示して、売却を進めて行きましたところ、空き家物件をしらみつぶしに調査している静岡県の不動産業者様から情報提供の連絡が入り、買主を探して頂くことになり、数か月の活動の結果、なんとか購入を希望する相手を検索していただきました。

買主は、造成工事を得意とする不動産業免許も持つ建築業者様でした。さすがに傾斜地の擁壁工事が必要となる土地ですから、納得の相手です。一般の人が買主となると、事前に確認しきれない法律上の責任(瑕疵担保責任)を売主が負うことになりますが、買主が不動産業者であれば、一般人の売主はその責任を負わないことができます。

今回の土地は上記のような課題の多い土地にも関わらず、都市銀行は、事業融資5,000万円の担保としていました。周辺の相場から算出すれば、5,000万円という金額は妥当であるのですが、実際に売買される価格では返済できない状況でしたので、後々、法律上の責任を負って費用負担があるような状況は避けるべきで、今回のような場所は売却した後の責任(費用負担)が生じないようにする方が、良い選択なのです。

借入金全額を返済しないと担保解除しない

担保がついている物件を売却するには、売買代金のうちから借り入れ残債を返済して、担保を抹消してもらう必要がありますが、今回の土地は、売買代金では、借入金全額を賄うことはできませんでした。

金融機関に土地を売却して借入金の一部を返済し、残りを分割して支払うことを相談しても、一括弁済しか認めない。という回答でした。

とはいえ、地方の土地の価格は徐々に下がっています。売買価格と借入額の差額を貯める最中に、さらに土地価格が下落したら、永遠に返済することができず、高い金利だけを払い続けることになります。事業利益の中から返済をすることを考えると、数千万円の借入金が減ることは、企業再生に於いては大きな効果があるので、なんとしてもまとめたい状況でした。

せっかく、購入希望者が居ても、借入金の返済方法について金融機関と協議や、他の金融機関で借り換えする方法も検討することとなり、数か月を要することになりましたが、この調整期間中に不安なことは、購入希望者の事情が変わり取り辞めになることです。焦る気持ちと戦いながら、正確な資金計画を検討していました。

個人情報もあり、詳細な方法はお伝え出来ませんが、なんとか、担保抹消する方法がまとまり、売却することができたのは、相談をうけてから一年後の事でした。

傾斜地だからこそ

今回の土地は、静岡市清水の傾斜地でしたが、地盤は高く、富士山が見える地域でした。『津波問題が懸念されるようになっては、静岡県では高い地盤の地域が好まれる傾向が強まった。海の近くであったら検討できなかった。』と買主様からは言われ、さまざまな状況によって、不動産の価値が大きく変わってきていることを改めて感じることができた事例でした。

傾斜地の耕作放棄地
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